古典

徒然草を読む182

第二百四十三段 八つになった年に、父*1に尋ねた事がある、「仏とはどのようなものでございますか」と。父が、「仏とは、人が成ったものである」と言ったので、私はまた尋ねた、「人はどのようにして仏に成るのでございますか」と。父は、「仏の教えによって…

徒然草を読む181

第二百四十二段 とこしえに逆境と順境とに振り回されるのは、偏に苦から離れ楽を求めようとするがためである。楽というのは、何かを好み愛する事である。これを求める心が、止む事はない。人が楽欲*1するもの、その一つが名声である。名声には二種ある。行状…

徒然草を読む180

第二百四十一段 満月の丸さというのは、少しの間もとどまる事がなく、すぐに欠けてしまう。心を留めない人には、一晩のうちにそこまで変ってしまったようにも見えないであろう。同じように、とどまっている間もなく重くなっていき、もはや死期が近付いている…

徒然草を読む179

第二百三十九段 八月十五日・九月十三日*1は、婁宿*2に当たる。この日は、曇りなく澄んでいるので、月を愛好するのにふさわしい夜とされる。 第二百四十段 人目を忍んで会おうとしても浦では海人の見る目が煩わしく*3、闇に紛れて会おうとしても見張っている…

徒然草を読む178

第二百三十八段 貴人の随身を務める近友*1が自慢話として、七箇条を書き留めた事がある。皆、馬術に関する事で、たいしたことのない話ばかりである。その例にならって、自慢する事が七つある。 一、人をたくさん連れて花見をしていた際、最勝光院*2の辺りで…

徒然草を読む177

第二百三十七段 柳筥*1に乗せて置く物は、削った柳の木と平行になるように置くか、または直角になるように置くか、それは置く物によるべきなのだろうか。「巻物などは、平行に置き、木の間からこよりを通して結びつける。硯も、平行に置いてあるのは、筆が転…

徒然草を読む176

第二百三十六段 丹波に出雲という所がある*1。出雲大社の神霊を請い迎えて祭り、出雲神社が造られた。はだの某とかいう者が治める土地であり、秋の頃、聖海*2上人はたくさんの人を誘って、「さあおいで下さい、出雲神社の参詣に。かいもちい*3をご馳走しまし…

徒然草を読む175

第二百三十五段 主人がいる家には、無関係な人が、好き勝手に出入りする事はないが、主人がいない家には、通りすがりの人がみだりに立ち入ったり、狐やふくろうのようなものまで、人の気配にさえぎられる事がないので、居場所を手に入れて満足したような顔で…

徒然草を読む174

第二百三十四段 何かについて尋ねてくる人というのは、その答えを知らない訳でもないだろうから、それを真に受けて答えようとするのは馬鹿馬鹿しいと思うのだろうか、相手の心を惑わすような曖昧な返答をする人がいるが、よくない事である。既に知っている事…

徒然草を読む173

第二百三十三段 すべてにおいて過ちがないようにしようと思うのならば、何事にも真心を込めて、相手によらず、誰に対しても礼儀正しく、言葉は少ないに越した事はない。男女・老少、皆、そのような人というのはいいものだが、特に、若くて美しい人で、言葉遣…

徒然草を読む172

第二百三十二段 大体のところ、人というものは、無智・無能であるようにしている方がいいのだ。ある人の子で、見た目なども悪くない者が、父の前で、人と話をする際に、歴史書の本文を引用していた。これは確かに賢そうには聞こえるが、目上の人の前ではその…

徒然草を読む171

第二百三十一段 園の別当入道*1は、無双の料理師である。ある人の所で、見事な鯉が出てきたので、人々は皆、別当入道の包丁さばきを見たいと思ったが、軽々しく口に出すのもいかがなものかとためらっていると、別当入道は、機転が利く人だったので、「この度…

徒然草を読む170

第二百二十九段 よい工匠というのは、少し鈍い小刀を使うそうだ。妙観*1の小刀はたいして切れ味が良くはなかった。 第二百三十段 五条大宮内裏*2には、化け物がいた。藤大納言*3殿によると、殿上人たちが、黒戸*4で碁を打っていると、御簾をまくり上げて見る…

徒然草を読む179

第二百二十七段 六時礼賛*1は、法然上人の弟子である安楽*2という名の僧が、経文を集めて作り、勤行としたのが始まりである。その後、太秦*3の善観房*4という僧が、詞章のそばに旋律を書き記し、声明*5にした。一度の念仏で浄土に往生できる事を説く最初の念…

徒然草を読む178

第二百二十六段 後鳥羽院の治世*1の頃、古典に造詣が深いと評判の信濃前司*2・行長*3は、白氏文集*4の新楽府*5の問題点を天皇の御前で討議する当番に呼ばれた際、七徳の舞*6にいわれる七つの徳のうち二つの徳を忘れていたので、五徳の冠者とあだ名を付けられ…

徒然草を読む177

第二百二十五段 多久資*1が言うには、通憲*2入道は、舞の型の中から興のあるものを選んで、磯の禅師*3という女に教えて舞わせた。白い水干*4に鞘巻*5を差させ、烏帽子をかぶらせたので、男舞と言われた。この磯の禅師の娘は静*6といい、この芸を継いだ。これ…

徒然草を読む176

第二百二十三段 鶴*1の大臣殿*2は、童名が、たづ殿なのである。鶴を飼われているからというのは、間違いである。 第二百二十四段 陰陽師の有宗*3入道が、鎌倉から尋ねて来られた時のこと、まず門から入ってくると、「この庭はいたずらに広い。見苦しくて、あ…

徒然草を読む175

第二百二十二段 竹谷*1の乗願房*2が、東二条院*3のもとへ参った際、東二条院が「故人の追善には、何事を行えば優れたご利益が多いのか」と尋ねられたところ、乗願房は「光明真言*4・宝篋印陀羅尼*5でございます」と答えた。弟子たちが、「どうしてそのように…

徒然草を読む174

第二百二十一段 「建治*1・弘安*2の頃は、賀茂祭の日の放免*3は、風変わりな紺の布四、五反で馬の形を作り、その尻尾とたてがみは燈心で作ったものを、蜘蛛の巣の絵を描き付けた水干*4に飾りとしてとじ付けて、歌の意味*5などを口にしながら、行列に加わって…

徒然草を読む173

第二百二十段 「何事も、都から遠く離れた土地というのは拙く、劣っているけれども、天王寺*1の舞楽だけは都にひけをとらない」と言われる。その天王寺の雅楽奏者が、「当寺の雅楽は、よく図竹*2を整え、それに調子を合わせており、楽器の音の調子がぴったり…

徒然草を読む172

第二百十九段 四条中納言*1が、「竜秋*2は、笙に関しては、特別な者である。先日訪ねて来た際、『短慮の至りであり、口にまかせて言う事この上ないのだが、横笛*3の五の穴は、いささか疑わしい所があるのではと、密かに考えている。というのも、干の穴は平調…

徒然草を読む171

第二百十八段 狐は人にかみつくものでもある。堀川殿*1では、寝ていた舎人が足を狐にかみつかれた。仁和寺では、夜、本堂の前を通った下級の僧に、三匹の狐が飛びかかってきた。かみついてきたので、小刀を抜いてこれを防ごうとしているうちに、二匹を突いた…

徒然草を読む170

第二百十七段 ある大金持ちが、「人は、すべてをさしおいて、ただひたすら富みを得る事をするべきである。貧しくては、生きている甲斐もない。豊かな人だけが人だと言える。富を得ようと思うならば、当然、まずその心の持ちようを修行するべきだ。その心とい…

徒然草を読む169

第二百十六段 最明寺の入道*1が、鶴岡八幡宮*2に参詣したついでに、足利の左馬入道*3のもとへ、まず使いを遣わしてから、立ち寄った時のこと。一番目の銚子には打ち鮑*4、二番目の銚子には干し海老が振る舞われ、三番目の銚子にかいもちい*5でしめとなった。…

徒然草を読む168

第二百十五段 大仏宣時*1朝臣が、老いた後、昔語りにこう話された。「最明寺*2の入道*3に、夜のまだふけきらない時間に呼ばれる事があった。『すぐに』と返事をしながら、直垂が見当たらなくてぐずぐずしていると、また使者がやって来て、『直垂などでいらっ…

徒然草を読む167

第二百十二段 秋の月は、限りなく素晴らしいものである。いつであっても月はこのようなものだと思って、他の季節と区別がつかない人がいるなら、まったく情けない事である。 第二百十三段 天皇の御前の火炉に火種を置く時は、火箸で挟む事はしない。土器から…

徒然草を読む166

第二百十一段 すべての事は当てにしてはならない。愚かな人は、深く物事を当てにするが故に、恨みや怒りが起こる。権勢があるからといって、それを当てにしてはならない。まず滅びるのは強い者だ。財産が多いからといって、それを当てにしてはならない。わず…

徒然草を読む165

第二百九段 他人の田を自分の所有地だと言って争う者が、自分の訴えが負けた悔しさに、「あの田の稲を刈り取ってしまえ」と、人を遣わせた。が、その者たちが道すがらの田の稲まで刈り取って行くので、「ここは、そちらのご主人が所有をめぐって争っている田…

徒然草を読む164

第二百八段 経文など巻物の紐を結ぶ際には、上と下からたすきに紐を交差させて、その二本の紐の間から先端を横に引き出すというのが、普通である。そのようにしたものを、華厳院*1の弘舜*2僧正はほどいて直させると、「これは、この頃のやり方である。実に好…

徒然草を読む163

第二百七段 亀山殿*1を建てるために土地の地ならしをしていると、大きな蛇が数え切れないほど集まっている塚があった。「この土地の神である」と、作業に携わる者が事の次第を後嵯峨上皇に申し上げたところ、上皇から「どうするべきか」とのお尋ねがあった。…