徒然草を読む167

野の花

第二百十二段

 秋の月は、限りなく素晴らしいものである。いつであっても月はこのようなものだと思って、他の季節と区別がつかない人がいるなら、まったく情けない事である。

第二百十三段

 天皇の御前の火炉に火種を置く時は、火箸で挟む事はしない。土器から直接に移すのである。そうであるので、火種が転がり落ちないように気をつけて、あらかじめ炭を積んでおくべきである。
 石清水八幡宮への御幸の際、お供の人々が、浄衣を着て、手で炭を継ぎ足されたところ、朝廷の儀式に詳しいある人が、「白い衣を着ている日には、火箸を用いて差し支えない」と言った。

第二百十四段

 想夫恋*1という楽曲は、妻が夫を恋い慕うという事に由来する名ではない。元は、相府蓮だが、文字の音が似通っているためこのように書くのである。東晋の王倹*2が、大臣として、家に蓮を植えて愛でていた時の楽曲である。この事から、大臣を蓮府*3と言う。
 廻忽*4も本来は廻鶻*5である。廻鶻国といって、蛮族の強力な国があった。その蛮族が漢に降伏して後に、やって来て、自身の国の楽曲を演奏したそうだ。

*1:そうふれん:雅楽の曲名で、唐楽の楽曲

*2:おうけん:実際、王倹が仕えたのは宋と斉

*3:れんぷ

*4:かいこつ:唐楽の楽曲の名

*5:ウイグルの事