徒然草を読む165

第二百九段

 他人の田を自分の所有地だと言って争う者が、自分の訴えが負けた悔しさに、「あの田の稲を刈り取ってしまえ」と、人を遣わせた。が、その者たちが道すがらの田の稲まで刈り取って行くので、「ここは、そちらのご主人が所有をめぐって争っている田ではない。どうしてそのような事をするのか」と言うと、「その争いの田とても、刈っていいという道理はない。どうせ道理にはずれた事をしようとしてやって来たのだから、我々がどこの田の稲を刈ったとしても同じ事だ」と答えたという。
 実に妙な道理を言うものである。

第二百十段

 「喚子鳥*1は作歌上、春季に属するものである」と言うばかりで、何の鳥ともはっきりと記している物はない。ある真言*2の中に、喚子鳥が鳴く時に、招魂の法*3が行われるという次第があるが、これは鵺*4の事である。また、万葉集長歌で、「霞立つ、長き春日の」などに続けて鵺が詠まれている事から、鵺は春のものだという事が分かる。この鵺という鳥も、喚子鳥の様子に似ているように思われる。

*1:よぶこどり:郭公、鶯、不如帰などの説がある

*2:真言宗密教の行法を記した書物

*3:しょうこんのほう:人間から魂を遊離させるような怪異がある時、それを招き返す秘伝

*4:ぬえ:トラツグミの異称