徒然草を読む175

第二百二十二段

 竹谷*1の乗願房*2が、東二条院*3のもとへ参った際、東二条院が「故人の追善には、何事を行えば優れたご利益が多いのか」と尋ねられたところ、乗願房は「光明真言*4・宝篋印陀羅尼*5でございます」と答えた。弟子たちが、「どうしてそのように言われたのですか。念仏に勝る事はございませんと、どうして言われなかったのでしょう」と言ったところ、乗願房は「我が浄土宗の宗旨であるので、そのように申し上げたかったけれども、まさしく、南無阿弥陀仏と唱える事で追善を行えば大きなご利益があるだろうと説いている経文を見るに至らなかった。というのも、何にそう書いてあるのかと続けてお尋ねになられたので、どのようにお答えしようかと考え、確実な本経に基づいて、真言・陀羅尼と申し上げたのだ」と答えた。

*1:たけだに:現京都市山科区の辺り

*2:じょうがんぼう:権中納言藤原長方の子でいみなは宗源、仁和寺密教を学んだ後、天台宗を修め、後に法然の弟子となった

*3:後深草天皇の后・公子

*4:こうみょうしんごん:大日如来真言(神呪)の一つで、唱えると一切の罪障が除かれるとされる

*5:ほうきょういんだらに:神呪の一つ