徒然草を読む175

第二百三十五段

 主人がいる家には、無関係な人が、好き勝手に出入りする事はないが、主人がいない家には、通りすがりの人がみだりに立ち入ったり、狐やふくろうのようなものまで、人の気配にさえぎられる事がないので、居場所を手に入れて満足したような顔で入り浸ったりする。木霊などという、奇怪な形のものまで現れる事もある。
 鏡には、色・像がないために、あらゆるものの影が映り込む。もし鏡に色・像があったならば、それ以外のものが映る事はないであろう。
 虚空は、何もないので、あらゆるものを包み入れる事ができる。我々の心に一瞬毎に思いが気ままに浮かんで来るのも、心というものに実体がないからであろうか。もし心に主人があったならば、胸の中に、多くの思いが入り込む事はないであろう。