徒然草を読む176

ACORN2007-10-26

第二百三十六段

 丹波に出雲という所がある*1出雲大社の神霊を請い迎えて祭り、出雲神社が造られた。はだの某とかいう者が治める土地であり、秋の頃、聖海*2上人はたくさんの人を誘って、「さあおいで下さい、出雲神社の参詣に。かいもちい*3をご馳走しましょう」と言うと、ずっと同行した。参拝した人々はそれぞれが、すばらしい信仰心を起こした。
 さて、拝殿前にある獅子・狛犬が背を向けて後ろ向きに立っていたのを見て、上人はひどく感動した。「何とすばらしい事だ。この獅子の立ち様は、とても珍しい。何か深いいわれがあるのだろう」と涙ぐみ、「どうですか皆さん、このように殊勝な事をご覧になりながら、気にならないのですか。あんまりです」と言うと、人々もそれを見て怪しみ、「本当に他とは異なっている」、「都への土産話としよう」などと言う。上人は一層、そのいわれを知りたくなり、年配の物事をよく心得ていそうな神官を呼んだ。「この御社の獅子の立ち様には、きっと由緒があるに違いありません。ちょっと教えていただけませんか」と言ったところ、神官は「その事なのですが、いたずらな子供たちが致しました事で、けしからぬ事でございます」と言うと、獅子に近寄り、向き合うように置き直して去って行った。上人の感涙は無駄になってしまった。

*1:京都府亀山市千歳町出雲

*2:しょうかい

*3:飯の餅ともそばがきとも言われる