平家物語を読む149

巻第十 八島院宣*1

 さて、平三左衛門・重国と後白河法皇の御所の召次所に勤める下役人は、屋島に赴き、法皇の命がしたためられた文書を平家に渡した。宗盛公以下の平家一門の公卿・殿上人が集まり、これを開いた。内容は以下の通りである。
安徳天皇が皇居を出られて諸国を漂白し、三種の神器が南海・四国に埋もれて数年が経った。とりわけ皇室にとって嘆かわしいのは、国が滅亡するもととなる事である。そもそも重衡卿というのは、東大寺を焼失させた逆臣である。当然、頼朝朝臣の要請に従って、死罪となるべきではあるが、一人だけ親族に別れて生け捕りとなっている身である。籠の中の鳥が雲を恋い慕うような思いは千里ものかなたの南海に浮かび、北へ帰る雁が友とはぐれてしまった時のような心細い気持ちはきっと都からはるか遠い旅の途中の地に通っているであろう。よって、三種の神器を返すのであれば、重衡卿の罪を寛大な心で許すつもりである。後白河法皇の命は以上の通り。
   寿永三年二月十四日 大膳大夫成忠が承り、平大納言殿へ

*1:やしまいんぜん