徒然草を読む98

Blue-gray Gnatcatcher

百十九段

 鎌倉の海で獲れる鰹という魚は、その地域では、並ぶものがないものだとして、近頃もてはやされている。それも、鎌倉の年寄りが言うには、「この魚は、私どもが若かった頃の世では、地位のある方の前へ出されるような事はありませんでした。頭は、身分の低い者でも食べず、切り捨ててしまうものでした」という事だ。
 このようなものも、末世になれば、上流の人々の間にまでも入り込んでくるという次第である。

百二十段

 唐の物は、薬の他は、皆なくとも不自由するような事はあるまい。書物については、この国に多く広まっているので、書写する事もできるだろう。唐船が続々と、容易ではない海路を、所狭しと無用の贅沢品を積み込んで、渡って来るのは、何とも愚かな事である。
 「遠方の物を宝として望まず*1」とも、また「手に入れるのが難しい宝を欲せず*2」とも、古書にあるという。

*1:「遠き物を宝とせざれば、則ち、遠き人格る」書経

*2:「得難きの貨を貴ばざれば、民をして盗を為さざらしむ」老子