徒然草を読む97

百十八段

 鯉の羹*1を食した日は、鬢がほつれないという事だ。にかわを作る原料でもあるから、粘りのあるものなのだろう。
 鯉だけは、天皇の御前でも料理されるものであるから、重んじられるべき魚である。鳥でいえば雉が、他に並ぶものがない。雉・松茸などは、天皇の御湯殿に続く間*2に掛けられていても見苦しくない。その他のものでは、見苦しい。中宮*3の御湯殿に続く間の黒塗りの棚*4に雁が置いてあったのを、中宮の父である北山の入道*5殿がご覧になって、帰られてからすぐに手紙にて、「あのようなものを、そのまま、雁の姿のままで黒塗りの棚に置いてあるというのは、慣習にない事で、不体裁な事です。しっかりとした頼りになる人が側にお仕えしていないからなのでしょう」などと伝えられたそうだ。

*1:あつもの

*2:湯・食物を調える高位の女官の間だった

*3:ここでは、後醍醐天皇中宮・禧子

*4:嫁入り道具の一つで、身の回りの道具類を置く

*5:西園寺実兼