徒然草を読む58

若葉

第七十一段

 名を聞くと、すぐにその人の容貌が想像できるような気がするが、実際に見てみると、前から思い描いていたような顔をしている人というのはいない。が、昔の物語を聞いていると、それを現在生きている誰かの家の辺りで起きたことのように思い描き、昔の人も、今知っている人の中から似た誰かを思い浮かべてしまうというのは、皆もやはりそうなのではないだろうか。
 また、何かの折に、たった今、人が言っている事も目に見える物も、このような出来事が以前にもあったのだがと、心の中で思われ、それがいつかは思い出す事ができなくとも、まさしくあったような気がするというのは、私だけなのであろうか。