徒然草を読む140

第百七十二段

 若い時は、血気が内に余り、心は物事に振り回され易く、色欲も強い。自分の身を危うくして、滅ぼしがちである事は、まるで勢いよく転がされた玉のようなものだ。見た目の美しさに重きをおいて、そのために財産を費やし、挙句の果てにすべてを捨てて出家し、粗末な衣をまとうみすぼらしい姿の僧となる。勇む心が強いため、他人と争い、心には恥や羨みを抱き、好みは日によって変る。恋愛に夢中になり、他人の愛情に感動し、後先を考えずに行動を起こして、その先の人生を台無しにし、命を失った人の例に憧れ、自分の身が安全で、長生きする事は思わず、好きな事の方にばかり心が引き寄せられる。そして長い間、世間の語り草となる。身を過つというのは、若い時に成す仕業によるのである。
 老いた人は、精神力が衰え、心が淡白であり細かい事にこだわらず、感情が揺れ動く事がない。心が自然と平静であるので、無益な事をせず、自分の身を大切にし、病に悩む事がないように、また他人を煩わせないようにと思っている。老いた人の智が若い人のそれに勝っているのは、若い人の容貌が老いた人のそれに勝っているようなものだ。