徒然草を読む141

湿原

第百七十三段

 小野小町についての事実は、極めてはっきりしていない。老いさらばえてからの様子は、「玉造小町子壮衰書*1」という文書に見られる。この文書は三善清行*2が書いたという説もあるが、高野山弘法大師*3の御作の目録に入っている。大師は承和*4の初めに亡くなられた。だが、小野小町が最も美しかったのは、その後の事である。やはりはっきりしない。

第百七十四段

 小鷹狩*5に適した犬を、大鷹狩*6に使うと、その後、小鷹狩には使えなくなるという。大を知ると、小は捨ててしまうという道理は、実にその通りである。人が成す事はたくさんあるが、その中でも、仏道への精進に喜びを知るより味わい深い事はない。これは、実に大切な事である。一度、仏道に耳を傾け、これを志そうとしたなら、それ以外の事は捨ててしまうであろう。仏道に精進する以外、他に何をするというのか。人というものは、たとえ愚かな人であっても、賢い犬の心より劣っているはずはないのだから。

*1:たまつくりこまちしそうすいしょ:平安中期頃に成立したとされる漢詩

*2:みよしのきよゆき:平安前期の漢学者で官人

*3:空海

*4:834年1月〜848年6月

*5:こたかがり:ハイタカチョウゲンボウなど小型の鷹を用いて行う秋の鷹狩で、ウズラ・シギ・雀などの小鳥を捕獲する

*6:おおたかがり:オオタカを用いて行う冬の鷹狩で、鶴・雁・鷺・兎などを捕獲する