徒然草を読む28

第三十三段

 現在の内裏*1が完成した時、朝廷の儀式や行事などに詳しい人々に見せたところ、どこにも問題はないということだった。ところが天皇の遷られる日が近付いてきた頃、玄輝門院*2がご覧になって、「閑院殿*3の櫛形の穴*4は、上が半月型で、縁もないものでありましたよ」とおっしゃった。閑院殿が焼失したのは玄輝門院が十四歳でいらっしゃった頃であり、その当時の記憶を七十二歳になられる今も保たれていたことになる。素晴らしいことであった。
 造られた櫛形の穴には、切り込みがあり、木で縁がしてあったので、間違いということで、すぐに直された。

第三十四段

 貝香*5とは、ほら貝のような形をした、小さくて、口の辺りが細長く突き出ている貝の蓋である。
 武蔵国の金沢*6という浦で採れるのだが、そこに住む者たちは、「『へなだり』と呼んでおります」と言っていた。

第三十五段

 筆で文字を書くのが下手な人が、気兼ねすることなく、次から次へと手紙を書くのはいい。見苦しいからと、他人に書かせるような人は、わずらわしく感じる。

*1:花園天皇の内裏で、二条富小路にあった

*2:げんきもんいん:後深草天皇の妃で、伏見天皇の母の藤原愔子

*3:かんいんどの:内裏の外に臨時に設けられた皇居・里内裏の一つ

*4:天皇が殿上の間を見るための覗き窓

*5:かいこう:練り香の材料となる長螺(ながにし)の蓋

*6:現在の神奈川県横浜市金沢区金沢