徒然草を読む160

第二百二段

 十月は神無月と言って、神事を遠慮するべき月だという事は、何にも記されていない。根拠となるべき古典も見当たらない。ただし、この月は、諸社では祭が行われないので、このような名が付けられたのだろうか。
 この月には、あらゆる神たちが、伊勢の皇太神宮に集われるなどという説もあるが、確かな論拠はない。そういう事ならば、伊勢ではこの月を特に祭月とするべきであるが、そういった先例もない。十月に、諸社へ天皇行幸なされるという先例も多い。ただし、多くは不吉な例であった。

第二百三段

 勅命によって罰せられた者の所に靫*1を掛けるというしきたりは、今では絶えてしまい知っている人もいない。天皇がご病気の際、また多くは、疫病が広まって世の中が騒がしくなった時に、五条の天神*2に靫が掛けられた。鞍馬寺*3の靫の明神というのも、靫を掛けられた神である。また、看督長*4が背負っている靫を家に掛けられると、その家の人は出たり入ったりする事ができなかった。この決まりが絶えて後、今の世では、家の門に封印を付ける事になったのである。

*1:ゆき:矢を入れて背に負う容器で、木や革で作られた

*2:京都市下京区天神前町にあり、疫病を治める神とされた

*3:京都市左京区鞍馬本町にある

*4:かどのおさ:検非違使庁の下官で、罪人の追捕や牢獄の監守などと司った