徒然草を読む107

海

百三十三段

 清涼殿の天皇の御寝所は、枕を東向きにする決まりである。そもそもこれは、大陸において東は陽気の発する所と考えられていたためであり、孔子も病になった際、枕を東向きにしたという。寝殿造りの正殿においては、東または南を枕にする事が、普通である。しかし白河上皇*1は、枕を北向きにして御休みになっていた。「北は忌む方角であり*2、伊勢は都から南の方角にある。伊勢の皇大神宮の方角を御足の向く方になされるのは、いかがなものか」と、言う人もいた。ただし、皇大神宮への遥拝は、東南の方角に向かって行われるものであり、南ではない。

*1:第72代天皇

*2:釈尊が入滅の際、頭を北にしていたとの伝えによる