徒然草を読む106

Laughing Gull

第百三十一段

 貧しい者は、金銭や品物を贈る事が謝礼だと思っており、老いた者は、力仕事をしてやる事が謝礼だと思っている。これらは己の身の程を分かっていないからであって、己の身の程を知って、能力が及ばない時は速やかに止めるのが、智というものである。速やかに止める事を相手が許してくれないとしたら、それはその人が間違っているのだ。己の身の程を知らないままに無理をして相手に尽くそうとするのは、己が間違っているのだ。
 貧しくて身の程を知らなければ盗みを働く事になり、力が衰えているのに身の程を知らなければ病にかかる事になる。

百三十二段

 鳥羽の作道*1は、鳥羽殿*2が建てられて後の名ではない。それ以前からの名である。大極殿で行われた元旦の儀において、元良親王*3に賀詞を奏上する役の声が、特に立派であったため、大極殿から鳥羽の作道まで聞こえたという事が、李部王*4の記に見られるとか。

*1:とばのつくりみち:現京都市下京区九条の四つ塚から上鳥羽・下鳥羽に通ずる道

*2:別名は城南離宮白河天皇(第72代、在位1072〜86年)が1086年に造営した

*3:もとよし:陽成天皇(第57代、在位876〜84年)の第一皇子

*4:りほうおう:醍醐天皇の皇子である、式部卿重明親王