徒然草を読む144

第百七十七段

 鎌倉の中書王*1の邸にて、蹴鞠が行われる事になっていたが、雨が降った後の庭がまだ乾いていなかったので、どうしようかと相談していたところ、佐々木の隠岐入道*2がのこぎりの屑を車にどっさり積んで献上したので、それを庭一面に敷いて、ぬかるみに煩わされる事はなくなった。「このような時のために取り集めて用意していたのだろう、すばらしい心掛けだ」と、人々は感心した。
 この事をある者が話題に出した時、居合わせた吉田中納言*3が、「乾いた砂の用意はなかったのか」とおっしゃったので、入道は恥ずかしい思いをした。すばらしいと思っていたのこぎりの屑だが、実は品位に欠け、普通ではない事である。蹴鞠の行事を執り行う人が、乾いた砂を前もって用意しておくのは、昔からの慣例なのだ。

*1:後嵯峨天皇の第二皇子・宗尊(むねたか)親王中務卿

*2:法名は真願

*3:藤原定資か