徒然草を読む119

第百四十五段

 後宇多上皇随身を務める秦重躬*1が、北面の武士の下野入道信願*2に対して、「落馬の相があります。よくよくご用心なさい」と言ったのを、信願は少しも信じなかったところ、馬から落ちて死んでしまった。人相を見るのに優れたこの一言を、神の言葉のようだと人々は思った。
 さて、「それは、どのような相か」とある人が尋ねたところ、「極めて桃尻*3である上に、暴れ馬を好んでいるので、この相を与えたのです。いつであれ、私が言い間違った事がありますか」と言ったという。

*1:はだのしげみ

*2:しもつけのにゅうどうしんがん

*3:乗馬が下手で、尻が鞍に安定しないこと