文字と音

方丈記 (岩波文庫)
 岩波文庫の「方丈記」を手に取り、いつものように黙って文字を目で追っていたが、頭の中を流れるその旋律が美しく、思わず声に出して読み始めた。
 本居宣長が繰り返し述べていた(日本語にとって)「文字は仮もの」という言葉を思い出す。文字がまだなかった頃、人に伝えるための言葉のすべては声に出され音となっていた。

文字は異国の文字にて、仮り用ゆるまでのこと也。音声に付きては、随分ぎんみすべし。

 私は黙読が好きだ。ことのほか、黙読によって頭の中に流れ出す音のない「音楽」には親しみを感じていた。だからこそ、日本語の音の美しさを思うなら、音読を避けて通ることはできないとこの頃は強く思うようになった。


――引用は、「文字」排蘆小船・石上私淑言――宣長「物のあはれ」歌論 (岩波文庫) 本居宣長 より