徒然草を読む149

木

第百八十四段

 相模守・時頼*1の母は、松下禅尼*2という。相模守を招く事があった際、すすけた障子の破れたところだけを、禅尼は自らの手で、小刀を用いて切り取って回り、そこだけを新しく張り替えた。その日、世話係として控えていた兄の秋田城の次官・安達義景*3が、「そのお仕事はこちらにいただいて、下男の某に張らせましょう。そのような事を得意としている者でございます」と言ったが、「その男でも、私の手細工にはよもや敵わないでしょう」言って、引き続き、一仕切りづつ張り替えていた。義景が、「すべてを張り替えれば、はるかに簡単だと思います。まだらであるのも、見苦しいのでは」と重ねて言ったところ、「私も、後からは、さっぱりとすべて張り替えようと思っているのですが、今日だけは、わざとこのようにしているのです、物は破れたところだけを修理して用いるものだと、若い人に見習わせて、忠告するためです」と答えたという。実に感心な事であった。
 世の中を治める道というのは、倹約を基本とする。禅尼は女性であるが、聖人の心に通じていた。天下を治める程の人を子として持つ人というのは、本当に、普通の人とは違うものなのだ。

*1:北条時頼(ときより):鎌倉幕府第5代の執権

*2:まつしたのぜんに

*3:あだちよしかげ