徒然草を読む82

第百一段

 ある人が大臣任命の儀式の内弁*1を務めた際、内記*2の持って来た宣命を受け取らずに、紫宸殿に上がり着座してしまうという事があった。この上ない失態であるが、取りに戻る訳にもいかず、思い悩んでいたところ、六位外記*3の中原康綱*4が衣を被った姿の宮中に仕える女房に頼み込んで、その宣命をそっと差し上げさせた。素晴らしい事である。

*1:ないべん:内裏の南面中央の正門で、諸事を取り仕切る役

*2:ないき:中務省に属し、詔勅宣命を担当する役の官職

*3:げき:太政官に属し、儀式の執行などを司る役の官職

*4:やすつな