徒然草を読む74

柵と空

第九十段

 大納言の子である法印の召使をしている乙鶴丸*1は、やすら殿という者と知り合いになり、よくその家を訪ねるようになった。ある時のこと、出掛けて戻ってきた乙鶴丸に、法印が「どこへ行ってきたのか」と尋ねると、乙鶴丸は「やすら殿の元へ行ってまいりました」と答えた。すると今度は「そのやすら殿というのは、在家の人か、それとも出家者か」と尋ねられたので、乙鶴丸は両袖を重ねてかしこまって、「どうでございましょうか。頭を見ておりませんので」と答えたのだった。
 どうして、頭だけが見えないのであろうか。

*1:おとづるまる