徒然草を読む43

Carolina Chickadee

第五十四段

 仁和寺の御室*1に大層美しい稚児がいるのを、何とかして誘い出して遊びたいと企む法師たちがいた。雑芸*2のできる法師たちを仲間に誘い入れると、しゃれた白木の重箱のような器を念入りに作り、箱のようなものの中にきちんと納め入れ、近くの丘陵の都合のよさそうな所に埋めた。上に紅葉を散らすなどして、誰にも気付かれないようにしてから御室へ向かい、稚児を誘い出した。
 稚児を連れ出すことができた嬉しさで、あちこち遊び回った後、法師たちは先程箱を埋めた苔の生えた所に並んで座った。「ひどく疲れたなあ」、「ああ、紅葉を焼いて酒を温めてくれる人がいたらいいのになあ」、「修法の効験のある僧たち、祈ってみられよ」などと言い合って、箱を埋めた木の下の方を向き、数珠を押しもんだり、印相を結んだりして、大げさな素振りで木の葉をかきのけたが、何も見当たらない。場所を間違えたのかと、掘り返さない所はないという程、山中をくまなく探したが、見つからなかった。箱を埋めたのを見ていた人がいて、法師たちが御室へ行っているうちに盗んだのであった。法師たちは、その場をつくろう言葉もなく、醜い言い争いをして、腹を立てたまま帰途に着いた。
 その場を面白くしようと、あまりに作為することは、必ずつまらぬ結果を引き起こすものである。

*1:代々の門跡である法親王の御所

*2:民間起源の歌謡