徒然草を読む10

第十二段

 同じような心を持つ人としめやかに語り合い、興味をそそられる事も、この世のはかなさも、隠し隔てなく口に出して心を慰める事ができたなら嬉しいであろうに、そういう人がいるわけではないので、少しも異ならないようにと気にしながら心を同じくしない人と向き合ったならば、まるで独りでいるような心地がするだろう。
 互いに言おうとしている事を、「なるほど」と聞く甲斐がある場合も、いささか違う所があろう人とは、「私はそうは思わぬ」などと言い争って、「そうであるから、そうなのだろう」などと語り合うという場合も、それなりに心は慰められるだろうとは思うが、実際は、愚痴のこぼし方などが自分と少しも同じではないような人は、大体のたわいのない話をしているうちはいいが、真実の心友とは、はるかな違いがあり、やりきれないものだ。

第十三段

 ひとり、灯火のもとで書物を広げ、見知らぬ昔の世の人を友とするのは、この上なく心が慰められる行いである。
 書物は、文選*1の心を打つ巻々、白氏文集*2老子の言葉*3、南華の篇*4。この国の文章博士*5たちが書いた物も、いにしえの物は、心を打つ事が多い

*1:もんぜん:梁の昭明太子の撰になる詩歌集で三十巻あり、周代から梁に至る約千年の間の代表的文学作品を集めたもの

*2:はくしのもんじゅ:唐の白居易(白楽天)の詩文集で、七十一巻と目録一巻から成る

*3:春秋戦国時代の思想家・老子による思想書老子」で、上下二巻から成り、「老子道徳経」とも呼ばれる

*4:なんかのへん:春秋戦国時代の思想家・荘子(荘周)による思想書荘子」で、三十三編から成り、道教では「南華真経」と尊んで呼ばれる

*5:もんじょうはかせ:大学寮・陰陽寮に属して、詩文・歴史を教授した