徒然草を読む72

第八十八段

 ある者が小野道風*1の手によって書かれた和漢朗詠集*2を持っているというので、ある人が、「昔からの言い伝えは根拠がない事ではありますが、四条大納言・藤原公任殿が選ばれた『和漢朗詠集』を、その当時既に亡くなっていた小野道風が書いたというのでは、時代が合わないのではありませんか。自信はありませんが」と言ったところ、持ち主は「そうでございますからこそ、世にも珍しいものなのでございます」と言って、それまで以上に大切にしたという。

*1:おののとうふう:平安中期の書家で、歌人藤原公任(きんとう)が生まれた966年に71歳で没

*2:藤原公任の撰による漢詩・和歌が収められた詩歌集で、1013年頃に成立