徒然草を読む67

Tufted Titmouse

第八十二段

 「巻物や草子などの、薄い織物で装飾された表紙は、すぐに壊れるのが困る」とある人が言った時に、頓阿*1が、「薄い織物の表紙は上下がほつれるほど、螺鈿の軸は貝が落ちた後の方が、素晴らしい」と言ったというが、思っていた以上に優れた人だと感心させられたものだ。何冊かを一部にまとめた草子などが、すべて同じ体裁でないのを見苦しいと言う人に、弘融*2僧都が、「物を必ず一そろいにしようとするのは、つまらぬ者のする事である。不ぞろいである事こそがいいのだ」と言ったのにも、立派なものだと感心させられた。
 「すべて、どんな物もみな、完全に出来上がっているというのは、好ましくない事である。物事がやり残したままの状態で置かれているというのは面白く、またその先にも命がつながっている事を思わせるものである。里内裏*3を造る際には、必ず完成させない箇所を残す事になっている」とある人が言っていた。先賢の作った仏教・儒教の書にも、段落が欠けているという事がある。

*1:とんな:二階堂貞宗、兼好と共に二条派の四天王の一人とされる歌人

*2:こうゆう:仁和寺の僧

*3:平安京の内裏の外に臨時に設けられた皇居