徒然草を読む64

第七十七段

 世間において、その頃、人々が噂の種にして言い合っている事を、かかわるべきではない人が、その事情によく通じていて、周りに語って聞かせたり、また自分からも尋ねたりするというのは、納得できない事である。特に、片田舎に住んでいる聖法師*1などは、世間の人の事を、まるで自分の身の上の事のように尋ね回り、どれほど知っているのかと思うほどに、言いふらしている。

第七十八段

 今時の珍しい事実のいくつかを、言いふらし、話題にするというのもまた、納得できない事である。世間で言い古されてしまうまで知らなかったという人には、むしろ心が引かれる。
 新しく来たばかりの人がある時など、元々住んでいる者たちの間で言い慣れている話題や物の名などを、心得ている者同士が、その一部だけを言い合い、目を見合わせたり、笑い合ったりして、心得ていない人に気まずい思いをさせるというのは、教養がなく、立派ではない人がする事に違いない。

第七十九段

 何事も、知っているようなふりはしないでいるのがいい。立派な人は、知っている事でも、そう知ったかぶった顔で言ったりはしないであろう。田舎から出てきた人ほど、あらゆる道に通じているような受け答えをするものである。よって、聞いている方が恥ずかしくなるような事もあるが、自分では素晴らしいと思っている様子であり、みっともないものだ。
 通じている方面については、口が重く、尋ねられない限りは答えないというのが立派である。

*1:ひじりぼうし:各地を遍歴している民間の遁世者