徒然草を読む61

第七十四段

 まるで蟻のように集まって、東へ西へと急ぎ、南へ北へと走る人の中には、身分の高い人もいれば、低い人もいる。老いた人もいれば、若い人もいる。これから向かう先のある人がいて、家へ帰る途中の人がいる。夜に寝て、朝に起きる。どうしてそれほど忙しそうなのであろうか。長寿をむやみに欲しがり、名利を求める。これらの欲望は収まる事がない。
 養生して、一体何を待つというのか。待ち受けているのは、ただ老いと死だけだ。それは速やかにやって来て、一刻の間も止まる事はない。これを待つ間に、何の楽しみがあるというのか。迷っている者はこれを恐れない。なぜなら、名利に溺れて、行き着く先が近い事を顧みないからである。また、愚かな者はこれを悲しむ。なぜなら、この世が常住である事を願って、変化*1の理を悟ってはいないからである。

*1:へんげ:常住の反対の意