徒然草を読む48

第五十九段

 仏の道に入り悟りを開くという人生における大事を決心した人は、心にひっかかる離れがたい様々な事を成し遂げようとはせず、そのままそっくり捨ててしまうべきである。「もうしばらくしてから。この事が済んでからにしよう」、「同じ事なら、あの事を片付けてからにしよう」、「しかじかの事については、人々にあざ笑われるかもしれない。将来、非難される事のないように終わらせておこう」、「何年もかかるのであれば困るが、そう長くはかからないだろう。焦らずに済ませよう」などと思っているうちは、このような用事ばかりがどんどん増えて、少しも減る事はなく、いつになっても修行を始める決心はつかないであろう。ざっと人を見てみたところ、出家しようという心構えを少し持っている程度の人は、皆、その心積もりだけで一生を終えてしまうようだ。
 近くの火事から逃れようとする人が、「しばらくしてからにしよう」などと言うものか。我が身を助けようとするならば、恥も顧みず、財産も捨てて逃げ去るものであろう。命は人の心積もりを待ってはくれない。死とは、水や火が攻め来るよりも速くやって来る逃れがたいものであるのに、思い立ったその時に、老いた親、幼い子、主君の恩、人の情を捨てにくいからといって捨てないでいられようか。