徒然草を読む45

第五十六段

 久しく疎遠であった後に会った人が、それまで自分に起こった事を、延々と語り続けるというのは感心できない。よく慣れ親しんだ人でも、しばらくぶりに会うと、遠慮を感じるものではないか。二流の人というのは、ちょっと外出した時にも、今日はこんな事があったと、息継ぎをする間もないほど喋ることに熱中するものだ。品位のある人が話しをする際、周りに人がたくさんいても、ある一人に向かって言っているのを、自然と他の人々も聞くようになるものであるが、品位の劣る人は、誰に対してというのでなく、たくさんの人の中で話し始めて、まるで今見ているかのように話すので、それを聞いている人々が皆大笑いしているというのは、ひどく騒々しいものだ。面白い事を言ってもひどく興奮する事がない人と、面白くもない事を言ってよく笑っている人と、その品位の程はおのずと知らされるであろう。
 他人の容姿のよし・あし、または学才のある人はそれについてなど、大勢で議論している際に、自分の事を引き合いに出して意見を言う人がいるが、聞き苦しいものである。