徒然草を読む34

第四十三段

 晩春の頃、のどかな美しい空の下、人里離れた山奥に、身分の低くない人が住んでいると思われる家が一軒。古びた木立、庭に散り敷かれたしおれた花に思わず目が留まり、足を踏み入れた。上げておくはずの南面の格子*1は皆下ろしたままで寂しげな様子である。東に向かい程よく開いている妻戸の御簾の破れ目から覗いてみると、年は二十歳ほどの美しい男が、くつろいではいるが、奥ゆかしく、のどかな様子で、机の上に手紙を広げて見ていた。
 どのような人なのだろうか、尋ねてみたいものである。

*1:寝殿造りの正面の戸で、日中は上に釣り上げておく