徒然草を読む27

第三十二段

 九月二十日頃、ある方に誘っていただき、夜が明けるまで月を見て歩く事があった。その方は思い出した場所があると、私に取り次ぎをさせてから、門の中へ入られた。一面にしっとりと露が下りる荒れた庭には、わざわざ焚いたわけではない香の匂いがひっそりと漂っていて、家の中で女性が声を抑えて話をしている様子も、実に趣がある。
 適当な時間に、私たちはそこを失礼したが、さきほどの女性の心のほどが優雅に思われて、物陰からしばらく様子を見ていたところ、妻戸をほんの少し押し開けて、女性は月を眺め始めた。すぐに戸を閉めてしまったなら、残念に感じただろうが、そうではなかった。来客が去った後まで、見ている人がいるとは知るはずもないであろう。このようなことは、ただ常日頃の心掛けによるものだ。
 その女性は程なく亡くなったと聞いている。