宝物

佐藤さとるファンタジー童話集

 先月、日本に行った際、夫の実家に置かせてもらっている荷物の中から、十冊の文庫本を掘り出してこちらに持ち帰った。佐藤さとるの童話集*1だ。
 小学校の時に親から買ってもらって以来、どこへ引越しをしても、この童話集はいつも一緒だった。
 一旦ページを開くと、主人公と共に私も、ふと気が付けば、日常からもう一つの世界に足を踏み入れている。氏の物語を知ってからは、普段何気なく見ている川や山や道や……どんな場所にも、自分の知らないたくさんの秘密が隠されているような気がして胸が躍った。世界が違って見えてきたと言ってもいいかもしれない。
 だからこの童話集は私にとって原点と言っていい存在だと思う。自分自身に後ろめたいような生活を送っていた時は、手に取ることができなかったことを思い出す。
 たとえ童話集そのものが手元からなくなったとしても、氏の物語は決して消えない宝物として私の中に残り続けるだろう。

*1:佐藤さとるファンタジー童話集 講談社文庫