佐藤さとる

随筆集 だれも知らない小さな話人生最初のお気に入りの本は「おおきなきがほしい (創作えほん 4)」だった。幼稚園児だった私は、踏み切りの向こう側にある図書館へ連れて行ってもらう度に、この本を返してはまた借りて帰ったような気がする。他の子の手に渡るのがいやだった。
それから数年が過ぎた頃、私は本の面白さにつかまった。きっかけは「コロボックル物語(1) だれも知らない小さな国 (児童文学創作シリーズ)」だった。
どちらも著者は佐藤さとるである。
佐藤さとるは以前、ある著書の中で次のようなことを述べている。

あらすじは大まかに考える程度にして、あとは「手が書く」。手の動きに任せると不思議と話しがまとまり、物語ができあがる。時には最初に考えていた結末とは変わることもある。だが確かにその方がしっくりくるのだ。逆に無理に結末を作り上げようとすると、どうにも作り話のようになってしまう。

手が動いて自然に生まれるもの、それは本人の実際の経験にしか源がない。
近頃、私は文章のリアリティーについてよく思いを馳せていた。書き手の頭の中だけで作り上げられた作品や、登場人物が書き手の意のままに動かされた作品にうんざりしていた。

そんな時、ふと思い立って近年発行の佐藤さとる随筆集「だれも知らない小さな話」を手に入れた。
これが引き金となり、二十年も昔に読んだ上記の著者の言葉を思い出したわけだが、右も左もわからない頃から好んで読み続けた本が、リアリティーにしっかりと裏打ちされたものだったと改めて知るのは感慨深いことだった。