徒然草を読む122

シャクナゲ

第百五十段

 芸事を身につけようとする人がよく、「上手にできないうちは、うかつにも人に知られてはならない。密かに習得して、人前でやってみせたなら、実に奥ゆかしい事であろう」と言っているが、このような事を言う人は、一つの芸でさえ習得する事はないだろう。
 芸が未熟なうちから、上手な人たちに交じって、けなされ笑われても恥ずかしがらず、それを物ともせず稽古に打ち込む人は、たとえ生まれつきその才能がなくとも、留まる事や自分勝手に振舞う事なく年を重ねれば、上手な人が稽古に励まないでいるよりは、最後には上手と言われる程に至り、人格も備わり、人々からも認められ、世間で並ぶ者のない程の名誉を得る事になる。
 達人と言われる人でも、始めの頃は下手だという噂も囁かれたし、ひどい欠点もあった。けれども、その人が芸の道の掟を守り、これを重んじて、自分勝手に振舞わなければ、世間に知られる大家として、万人の師となる事は、どの芸の道においても同じである。