徒然草を読む59

第七十二段

 座っている周りに道具類があふれている様子というのは、見る者に卑しい印象を与える。硯の横に筆が多いのも、持仏堂に仏像が多いのも、また庭園に石や草木が多いのもそうである。家の中に子や孫が多いこと、人に対して言葉が多いこと、願文に作善*1を多く書き載せたもの、いずれも同じである。
 多くとも見苦しくないのは、文車*2に上の文、そして塵塚の塵である。

*1:さぜん:造寺・造仏・写経などの善事を行うこと

*2:ふみぐるま:書物などを運ぶのに使った板張りの屋形車