徒然草を読む14

第十八段

 人は、己を簡素にし、おごりを退けて、財産を持たず、世の中での名誉や利益を得ようとしないのが、立派である。昔より、賢人で裕福な人はめったにいない。
 尭*1の時代の賢人で許由*2という人は、携えるような貯えすらなく、水を飲むのにも手を使って飲んでいた。これを見た人間がなりひさご*3という物を与えたが、ある時、木の枝に懸けたひさごが、風に吹かれて鳴っているのを聞いて、許由はやかましいと捨ててしまった。それからは再び、手の平を組んで水を飲むようになった。その心の内はどれほど、清らかであったことだろう。孫晨*4は、月の光がさえ渡る寒い冬、寝具がなかったが、藁が一束あったので、夜はこれに体を横たえ、朝はこれを片付けたという。
 大陸の人は、これらを立派だと思ったからこそ、書き留めて世の中にも伝えたのだろうが、この国の人は、このような人について語りもしなければ伝えるということもない。

*1:ぎょう:中国古代の聖王

*2:きょゆう

*3:生り瓢:ひょうたん

*4:そんしん