ゴッホの手紙 テオドル宛*1

ゴッホの手紙 テオドル宛

 まるで今さっきしたためられたかのように生々しい言葉の数々は、一人の絵描きが確かに生きていたことを否応なしに伝えてくる。
 常に貧困に悩まされ、時には「絵との悪縁がときどきいやになる」とつぶやきながらも、彼はただひたすら描き続けた。
 そこにいるのは、豪華な額縁に入れられた美術館の絵や綺麗に装本された画集の作者ではなく、自然の美しさを知り尽くした絵を描くことが好きでたまらない一人の人間である。
 絵について語っている箇所を読んでいると、簡素な部屋で独りカンバスに向かう姿がまざまざと目に浮かんでくるようだった。

 今三枚の画布にかかっている。第一は、緑の花瓶にさした三輪の大きな花で、明るい背景の十五号、第二は、濃紺の背景に種子のあるのと葉を取ったのと、蕾のとの三輪の花で二十五号、第三は、黄色の花瓶にさした十二輪の花と蕾で三十号のものである。最後のものは明るい色が明るい色の上に重なっているのだが、これを一番良いものにしたい。もっと描きこむことになるだろう。
 ゴーガンが僕のアトリエでいっしょに暮すことを期待して、部屋の装飾をつくりたいと思っている。大きな《向日葵》ばかりでね。
――「第五二六信」より

 ゴッホは近々始まるであろうゴーガンとの共同生活に大きな期待を寄せていた。