くるみ割り人形

Nutcracker-Comp
 クリスマスが近い。昨日、何気なくつけたテレビから、聞き覚えのある旋律が流れてきた。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」の一曲、「こんぺい糖の精の踊り」だ。
 小学六年の冬だったと思う。よく遊んでいた数人の友達のうちの一人が、皆の前で「実は、少し前からバレエを習っていた」と恥ずかしそうに打ち明けた。聞けば、近く発表会があるそうで、できれば皆で見に来てほしいとのことだ。どんなに寒くても外で遊びを見つけては走り回り、家の中で遊ぶことなど皆無だった私たち、バレエなんてどこかのお嬢様がするような遠い世界のものだと思っていたから、少し戸惑った。それでも発表会当日には、なぜだか誇らしいような気持ちで会場へ向かった。演目は「くるみ割り人形」。慣れない雰囲気のせいか、私を含め皆、借りてきた猫のようにおとなしい。背がすらりと高い友達は「こんぺい糖の精」を演じた。
 私の「くるみ割り人形」の記憶はいつもここまでさかのぼる。だが、昨日は違った。ふと頭の中に浮かんだのは、薄暗い部屋の中を動く人形たち、たくさんのネズミ、夢のように低く響く男の声……。もっとずっと前、人形によって演じられた「くるみ割り人形」を、映画館で見たことを思い出したのだ。途端に、あの時の胸の高鳴りや恐怖までもが、昨日のことのようによみがえった。調べてみると、1979年に上映されている。私が6歳の時だ。
 当時、始まるやいなや、私はこの映画に引き込まれた。なんて不思議で面白い世界があるのだろう、そう感じていた。が、その思いを連れてきてくれた親や他の誰かに伝えることはしなかったと思う。そういう感情をどうすればいいのか、私はまだわからなかった。
 今回、調べていて、この「くるみ割り人形」のDVD*1が発売されていることを知る。私と同じように子供の頃、映画館で見た時の感覚が忘れられずに購入している人も多いようだ。「くるみ割り人形」は言わずと知れたクリスマスイブの物語、この時期にぜひもう一度見てみたい。


*DVDのジャケットが表示されないので、CDのものを載せています