富岡鉄斎

富岡鉄斎と言われてぴんと来ない人でも、どこかで氏の絵を目にしたことはあるのではないだろうか。教科書かもしれないし、切手かもしれない。
小林秀雄 美と出会う旅 (とんぼの本)で紹介されていた「富士山図*1」は強烈な印象を私に残した。たちまち私は鉄斎のとりこになった。近代絵画 (新潮文庫 こ 6-5)で鉄斎について書かれたものを読んでからはますます、いつか間近で氏の絵を見たい、そう願うようになった。程なく、市の美術館に特別展がやってくることを知った。三年前のことだ。


ある一枚、天まで盛り上がった緑の山の迫力を前に、私はしばらくその場所から離れることができなかった。
油断するとこちらが飲まれてしまう。見ている者に挑んで来るような精力だ。
ふと、例えば文章でこれだけのものを表現できるのだろうか、と私は世の画家に対して羨ましいような妬ましいような気持ちになった。


平日の美術館はがらんとしてほとんど人がいなかった。お陰で私は好きなだけ鉄斎を味わうことができた。

いつかは「富士山図」と対峙してみたい。その時に圧倒されない自分でいられるかは、今後の生き方にもよるだろう。

*1:清荒神清澄寺鉄斎美術館蔵